ユンボ8(最終回)




技術者:「主任、評価試験はまた失敗しました!」

主任:「何がいけなかったのかね。」

技術者:「どうも肩の部分の防水塗料にクラックが
    入って、そこから涙が浸透して、電気回路が
    誤動作をしたようです。」

主任:「失敗はかれこれ、これで4回目になるな。
    発売まであと3か月、急がなければ。
    それと、このことはしばらく会社の上層部には
    内緒にしておこう。」

技術者:「主任、今回のU-3Rの暴走ははかなり危険でしたね。」

主任:「そうだな、前回も評価試験中に家を3軒壊したが、
    今回の相手が人間だったらと思うとぞっとするな。」

技術者:「やっぱり最終評価はお金がかかっても、
     アンドロイドを使うしかありませんね。」
    
主任:「うん、最終的に安全が確認できるまではその方法しか
   有るまい。
   ところでロボットの修理にはどのくらい時間がかかりそうかね。」

技術者:「U-3Rの防水塗装のやり直しは簡単なのであまり
     時間はかからないでしょう。
     ただしアンドロイド型のロボットは腕と胸の部分に
     かなりの損傷を受けていますので、修理には3日程
     かかると思います。」 

主任:「確かにU-3Rにあれだけの力で締め付けられれば、
    アンドロイドの首から下は使い物にならないだろう。
    首と胴体を切り離して下の部分は新しくするように、
    修理部に連絡してくれ。」

技術者:「わかりました主任。」

主任:「それでは評価試の再開は一日安全をみて4日後としよう。
    それとアンドロイド型ロボットの記憶は完全にリセット
    するように伝えてくれ。」

技術者:「記憶を完全に消去するんですね、それでは評価は
     全て初めからとなりますが、それでよろしいでしょうか。」

主任:「仕方ないな、テストは全て初めからやり直そう、
     ただし筋書きは前と同じでいこう。」

技術者:「わかりました、主任。」




--- それから4日後 ---

ある日アパートに帰ったら、若い女性が部屋の中に
座っていた。
そして「お帰りなさい」と彼女は言った。
私は驚いて部屋を飛び出した、そして入口の表札を
改めて見直した.........

  

2009年08月31日 Posted by igoten at 07:13Comments(12)ユンボ

ユンボ7



そんなある日私が会社から帰って来て
「ただいま」と言いながらドアを開けると、
ユンボが玄関先の畳の上に正座で待っていた。
そして「お帰りなさい」と言った。

「どうしたんだ」と私が言うと、ユンボは
「実は私は人間ではありません、
長い間お世話になりましたが、間もなく
お迎えが参ります。」
これではまるでかぐや姫だ、インド人のプログラマー
はどうも『竹取り物語』の影響を受けたようである。
ユンボが人間でないことなどわかりきっている。

「もう少し詳しく話しなさい。」私は言った。
ユンボが言うには、ユンボは実は『お手伝い型ロボット』の
試作品であり、そのテストを兼ねて、雑誌の読者に1か月
の限定で貸し出されたものである。
貸出期間に関しては、取扱説明書36巻の「貸出期間」に
明記されているというのである。

更にユンボは言う、
「私の販売モデルは今から3か月後に『ボロット社』から
販売される予定です。」
「あなたが購入になった『肩もみプログラム』は新モデル
上でも動作して、もし新モデルを購入になった時は、
引き続き無料で使用できます。」

そして更に、
「この1ヶ月間の記憶はそっくり保存されます、そして
もしあなたが新モデルを購入した時にはその記憶を
移植することが可能です。」
と言った。

3か月待たなければならないのか、私は思った。
「新モデルはいったいくらなのだ?」私は尋ねた。

「オプション無しで1500万円です。発売から
一年の間は国からの200万円の補助金が出ます。
更に住宅金融公庫からの借入が可能です。」と言った。

「1500万円か、安い住宅一戸と同じか、でもユンボ
なしではもう暮せないしな。」私は思った。
そしてユンボを見ると、ユンボは下を向いて、
悲しそうな顔をしている。

その顔を見たとき、私の頭にこの1か月の
間のユンボとの暮らしがよみがえってきた。
「ユンボ!」私はそう叫んでユンボの肩を
抱きしめた。
涙もろい私の目から涙がこぼれ落ちた。

その時である、ユンボの胸がわずかに光った。
するとユンボは、今度は逆に私を腕の上から
抱きしめたのである。

そしてその抱きしめる力はだんだんと強く
なった。
「な、何をするユンボ!放せ!」と叫ぶ私。

しかしユンボの力は前にも増して強くなった。
「い、痛い」私は叫ぶ、何も言わずに力を
強めるユンボ。

ものすごい痛みが私を襲ったが、更にユンボの
力が増した時、不思議に私の痛みは遠のいて、
私は何か大きな存在に抱きしめられているような
そんな錯覚に陥った。

「ユンボ...」そのまま私の意識は遠のいて行った。


次回は最終回、私はどうなってしまうのか、そして
ユンボは....
最終回をお楽しみに。
  

2009年08月29日 Posted by igoten at 07:10Comments(4)ユンボ

ユンボ6



その日私は一刻も早く家に帰ろうと思ったのだが、
月末の為に、どうしても明日までに仕上げる仕事が
あり、結局家に着いたのは11時を回っていた。

家について「ただいま」と私が言うと、
「お帰りなさい、お風呂が沸いています」ユンボが言った。
「夕食はお済みのはずですよね。」ユンボは続けた。

”しまった”と私は思った、そう言えば今日は外で食事を
して来ると苦し紛れに言ってあった。
「まあね。」私はあいまいに答えて、服を脱いで風呂に
入った。

風呂から出ると、ユンボが洗濯したてのパジャマを私に
手渡しながら、「お茶でもいれましょう」と言った。
パジャマのズボンをはこうとして片足を上げた時に
私は空腹のあまり、思わずよろけてしまった。

「大丈夫ですか」私を支えながら心配そうにユンボは言った。

「大丈夫だ、腹が減っただけだ、実は今日は晩飯を
食べなかったのだよ。」私は答えた。

「え!」と言ってユンボはしばらく私の顔を見ていたが、
「少しお待ちください」と言って、急いでドアから外に
出て行ったのである。

しばらくしてユンボは両手に一杯のポリ袋を提げて
「ただいま」と言って帰って来た。
そしてそのままキッチンで何かガサガサ音を立てていたが、
そのうちにキッチンの方から何やら言い匂いがしてきた。

「お待ちそうさま、ビーフシチューです。」そう言って
ユンボは私の方に、スープ皿をさし出した。
一口食べて「旨い!」と私は叫んだ。
こんな旨いビーフシチューは初めてであった。

しかし私には色々疑問がわいてきた。
「材料を買う金がないのに、どの様にして
こんな料理が出来たのだ?」私は尋ねた。
「それと先ほどはいったいどこに行って来たのか?」
更に私は尋ねる。

「実は私は新宿歌舞伎町のレストラン街に行って
参りました。」
「料理の材料はそこのレストランが、捨てた
生ごみの中から拾ってきたのです。」
とユンボは言った。

「な!生ごみ、そんなものを食わせたのか、
腹をこわすような事はないのか?」私はどなった。

「大丈夫です、私は一級衛生管理者の資格
を持っています、材料は安全なものばかりを
厳選し、しかも良く煮込んでありますから。」
ユンボは答える。

「しかし、歌舞伎町はここから10kmもあるでは
無いか、終電はすでに出てしまっていたし、
タクシーに乗る金も無かったはずだが。」
私は言った。

「実は私は速度リミットがかかった状態でも、
時速80Kmで走ることが出来ます。
従ってここと歌舞伎町との往復は20分は
かかりません。」そうユンボが答えた。

「リミットがかかった状態で80km!
リミットを外すといったい何キロで走れるのだ?」
思わず私は尋ねる。

「最高速度は250Kmです。」ユンボが答える。

ドイツ車並みだなと私は思った。
「リミットを外すことは出来るのか?」
私が尋ねる。

「違法改造になりますが、やってみましょうか?」
ユンボが言う。

「い、いやそままでいい。」
危ないロボットである。
「ところで今日は給料日だから、今月の
食費を渡しておくよ。」
私はそう言って財布の中からお金を
出して渡した。

「あーん」とユンボは口をあけて舌を
出して受け取り、ごくんと飲みこんだ。

「なぜ手で受け取らないのだ」私は尋ねた。

「このお金を受け取るプログラムは、
『お使い犬』と同じプログラムを使っています
犬には足はあっても手がないので。。」
とユンボは恥ずかしそうに言った。

それでお金を取り出す時にはどうするのだ、と
私は尋ねようとしたがやめた。

そんなこんなで私とユンボの蜜月の日は続いた。
そしてずっと続くはずで有った。

続くかも。。。
  

2009年08月28日 Posted by igoten at 07:07Comments(2)ユンボ

ユンボ5



私の背後に回ったユンボは、私の肩をそっと掴んだ。
これが私がユンボに触れる最初で、いやユンボが
私に触れる最初であった。

ユンボの手は思ったより柔らかく人間の手と殆ど
変わらないように思えた。

それより何よりユンボの肩もみは素晴らしかった。
掌が動くだけではなく、手全体が心地よく振動した。
「ああ!振動が気持ちが良い。」私が言うと。

「この振動は効率良く脳の中でアルファ波を作りだすための
1/f振動になっています。」ユンボが言う。

さすが介護用のプログラムである。
そしてユンボは口では五木の子守唄を口ずさんでいる。
どうも子守用のプログラムが混じっているようであった。
あまりの心地よさに私はそのまま寝込んでしまった。

次の朝目を覚ますと、ユンボが私を優しく揺すっていた。
「起きてください、朝食が出来ています。」ユンボはそう言った。

びっくりして飛び起きると、私はベットの上に寝ていた。
「あれ!誰がベットに私を運んだのだ?」と私は叫んだ。

「私が運びました。」ユンボはは言った。

「え!わ、私は少なくても75Kgはあるのだが、その私を
持ち上げてベットに運んだと言うのか?」私は叫んだ。

「そうです私はフル充電された状態で250kgまでの
物を持ち上げることがで出来ます。」

「250K!」私は言った。

「ご不満ですか、ご不満の場合は私に装備されている
標準バッテリーを特別なスーパーリチュウムイオンバッテリーに
交換することで500kgまでの物を持ち上げる事が出来ます。
今なら夏の特別キャンペーンで定価65万円のところ。。。」

「わ、わかった、とりあえず今のままでいいよ。」私は言った。

私は起き上がって、洗面所で顔を洗った。
そしてキッチンに行くと既に朝食が用意されていた。
朝食はフレンチトーストとオレンジジュースで有った。
卵とパンは確かに冷蔵庫に入っていた覚えがあるが、
オレンジジュースなどは冷蔵庫に入れてなかったはずである。

「おかしいな、オレンジジュースなどどこに有ったのだ?」
と私が言うと、
「冷蔵庫の隅の少ししなびた蜜柑を私が握りつぶしました。」
ユンボはそう言って少し笑った。

久しぶりの朝食を済ました私は、パジャマを洋服に着替えて
会社に出勤することにした。

家を出ようと玄関で靴を履いていると、「行ってらっしゃい、
はいお弁当」と言って、ユンボが四角い包みを手渡した。
「え!弁当?」私は思わず聞き返した。


続くかも。。。
  

2009年08月26日 Posted by igoten at 07:13Comments(9)ユンボ

ユンボ4



やがてOSのバージョンアップが始まった。
ユンボの方から何やらフーフー、ハーハー言う
声が聞こえてくる。
何事かと思って前に回ってみると、ユンボの目が
ぐるぐると回っている、しかも時々瞳がピカリとひかる。
OSバージョンアップ中は警告の為にこうなるのか、
しばらく見ていたが、私も目が回りそうになったので
元の場所に戻って座って待つことにした。

「 Program successfully installed.」ユンボが言った。
(プログラムのインストールに成功しました)

「Reset System now.」
(これよりシステムの再起動を行います。)
そう言うとユンボはいきなり畳の上に仰向けに寝転んだ。

そしてしばらく死んだように動かなかったが、
やがて少しずつユンボの足の指が動いていることがわかった。
やがてその動きは波のように上部に移っていき、次に足首が、
そして膝が動く。

どうもよくわからないがOSのバージョンアップ時は、
身体を動かす全ての動作の確認を行っているようである。
最後にかすかに耳が動いたような気がしたが、その時
ユンボはいきなり立ち上がって、
「All jobs are done.」と言った。
(全ての仕事は終わった。)

そして「Let's go ahead.」と言い。
(次に行ってみよう)

さらに「Are you ready?」と言った。
(準備はいいですか?)

全て英語ではないか、私はあせった、いくら私が
英語が苦手でも、Are you ready?位はわかるが、
全て英語でしゃべられるのはまずい。
「ジャ、ジャパニーズ プリーズ」
(日本語でお願い)

と言った、私が知っている数少ない英語のフレーズである。
ユンボは少し驚いたような顔で私の方を見ていたが、やがて
「Shit! Son of a bich.」と叫んだ。
(くそったれ)

そして
「...fogot install a japanese pack...」
(日本語パックをインストールするのを忘れた)

などと訳のわからないことをぶつぶつ言っていたが、
やがて自分の胸のあたりを右手の人差指で押した。
すると、首の付け根の10cm位下の所が、5cm角程
割れて、テンキーが現れた。

ユンボはそのキーを押す。
しばらくして呼び出し音がして、次の声が聞こえてきた。
「Hello this is software development division for U-3R in India」
(もしもし、こちらはU-3Rのインドのソフト開発部です)

と言った、どうもこのロボットの本体は日本製であるが
ソフトウェアーはインドのソフトウェアーの会社に
下請けに出しているようである。

「Hello this is Unbo,I have a ploblem in installing OS.
Local language is'nt automatically installed.」ユンボが言う。
(もしもしこちらはユンボですが、OSのインストールで問題が
起きました、日本語が自動的にインストール出来ません。)
ユンボが言う。

「Seliar no please.」インド人が言う。
(シリアルNoを言ってください)

「Well,4.」ユンボが言う。
(えーと、4番です)

「Which language please.」インド人が言う。
(言語は何ですか?)

「Japanese.」ユンボが言う。
(日本語です)

「Oh! No,it's a bug. Download a fix-proguram from
our web site please.」インド人が言った。
(まいったな、バグがあるよ、我々のWebサイトから、
修繕プログラムをダウンロードしてください)

やがてユンボは再びパソコンに向かうとキーボードを叩き
はじめた。

そしてしばらくして
「日本語パックを無事にインストールしました。」
「続いてロケールを日本に設定しました。」
と日本語で言った。

そして「お待たせしました、これから肩をお揉みします。」
と言って私の背後に回ったのである。

続くかも。。
  


2009年08月25日 Posted by igoten at 07:12Comments(5)ユンボ

ユンボ3



さて、私が夕飯を食べ終わると、「後片付けをします。」
と言ってユンボは立ち上がった。
そして私が食べ終わった食器をお盆の上に載せて
キッチンに運び、洗い始めた。水音がする。
「あぁ!水を使って大丈夫なのか?」私は叫んだ。
「ご心配なく、私の体の首から下は、5気圧防水になっています。」
「詳しくは取扱説明書16巻の”ロボットの防水処理”をお読みください。」
ユンボはこちらに顔だけ向けてそういった。

そうこうしているうちに何かヘアードライヤーをかけるような音が
キッチンからする。
私は座ったままま少し身体を後ろにそらせて、キッチンを
見ると、ユンボは洗い終わった皿を、口で吹いて乾かしていた。
口から温かい空気が出るようである。
「舐めより良いか」と私は思った。

食事の後片付けが済むとユンボは私の前に来て座り
「これで本日の仕事は終わりましたが、他に何か
することはありますか?」と言った。
それを聞いた途端私はなぜか一日の疲れがどっと出て、
「肩でも揉んでもらおうかな」とつい言ってしまった。

「それは出来ません。」ユンボはきっぱりと言った。
「私は家事手伝い型ロボットです、肩もみは介護用ロボット
の仕事になります。」
そして今度は優しい声で「ただしオプションプログラムを
購入すると、家事手伝い型ロボットでも、肩もみ機能が
追加されます、ただいま夏のキャンペーン期間中なので、
通常は12万円のところが6万円で購入できます。
12か月の分割払いも可能ですがいかがいたしましょう。」

”いかがいたしましょう”と言われても弱った。
ただし私は極度の肩こり症なので、一か月6千円の分割
払いで肩こりが少しでも解消するなら価値はあるかも知れない
とふと思った。
そして「じゃあ購入してみようか」と簡単に言った。

それを聞くとユンボは、「ではお待ちください。」と言うと
私のコンピュータの前に行きコンピューターの電源を入れると、
今度は口からUSBケーブルを引っ張り出して、コンピューターに
接続しカタカタとキーボードを叩き始めた。

しばらくしてユンボは私の方を向いて、「クレジットカードの
番号を入れて下さい」と言った。
私が言われるがまま、クレジットカードの番号を入れると、
「プログラムのダウンロードが終わりました。」
とユンボは言う、更に「プログラムのインストールを
開始します。しばらくお待ちください。」と言うと、
口笛を吹き始めた。

どうもこのロボットはプログラムをインストールする時は
口笛で知らせるようである。
ただしUSBのケーブルが口から出ているので、口笛は
とぎれとぎれになってしまう、いわゆる設計上の不具合と
言うやつである。

やがて口笛がやむとユンボは「プログラムのインストール
が済みましたので、肩もみプログラムを起動します。」
と言って私の背後に回った。

ユンボが私の後ろに回って、肩をもむ体制になった時
突然「それではつかまらさせていただきます。」と言う
声が聞こえた。
私は飛びあがった、何と座頭一の声であった。
「な、何かおかしい!」私は叫んだ。
「何かおかしゅうござりまするな。」ユンボが言う、
座頭一の声である。

「ちょっとお待ちなすって下さりませ。」そいうとユンボは
再びコンピューターの前に行き、USBを差し込んで、
キーボードをカタカタ叩き始めた。
そしてこう言った。
「ダウンロードしたプログラムとOSの相性が悪いようです、
これからOSのバージンアップを行いますので、30分
程お待ちください。」


続くかも。。。
  

2009年08月22日 Posted by igoten at 07:41Comments(4)ユンボ

ユンボ2



さてキッチンの方から何やらカタカタ音がする、
そのうちに何か炒める音と良い匂いがしてきた。
やがてユンボはお盆の上に何やら夕食らしい物を
載せて運んできた。

「お待たせしました、夕食です。」ユンボは言った。
見ると、チャーハンとスープと野菜炒めが載っていた。
「これは何のチャーハンですか?」と私は尋ねた。
と言うのも、私の家の冷蔵庫にはろくな食材が入って
いないはずである。
とてもチャーハンなぞ作れるはずが無かった。

「納豆チャーハンです。」ユンボは言った。
「どうぞ召し上がって下さい。」彼女は続けた。
私はそのチャーハンを一口、口に入れた。
「ウーム、旨い!」私た思わず叫んだ。
実際チャーハンは実に美味で有った。
「良く殆どろくな材料も無いのに、これほどの
料理ができたね。」私は感嘆していった。

「私の家事手伝いプログラムは、基本的に
サブルーチンとして一般最適化アルゴリズム
『PSV1 バージョン2』が組み込まれています。
このアルゴリズムは、3次元座標ある2つの点
X、Yを最短で結ぶルートを計算し、その2つの点を
結ぶことで、最大の効果を導き出します。

この夕食の場合、冷蔵庫の中に、食べ掛けの
納豆と賞味期限切れのソーセージがあり、それと電気釜の
中の固くなったご飯が有りました。
これをベルジェット空間の仮想点に置き、その最短距離を
求めた結果チャーハンがもっとも効果的な料理であるとの
結論を得ました。」

「なるほど。」私は言った。
なんだか私は頭がチカチカしてきたが、要するに旨ければ
良いのである。
スープや野菜炒めを食べてみたが、どれも驚くほど
美味しくて、あの食材からこれほど美味な料理を
作るとはこのロボット侮れないなとひそかに思った。

「それで明日はどうするのだ。」私は尋ねてから
しまったと思った。

「明日は買い物に行ってまいります。私には家計簿
自動作成プログラムが標準で装備されています。
このプログラムは全国12、562市町村の食品
雑貨データーベースをもとに、現在その店で売られている
商品の価格を分析し、最も格安な材料を仕入れると共に、
そのデーターを料理作成プログラムのアドインプログラム
にロードして、最適な......」
「わ、わかった。」私は言った。

私の言葉に遮られて、ユンボは今までの遠くを
見る目つきから、私の顔を見て、言った。
「ところで相談ですが、明日の買い物に行く資金を
3,000円程いただきたいと思います。」
そう言って彼女は長い舌をベロント出した。
その舌の上にお金を乗せろと言うのである。

私は焦った、実は今日は給料の前日で、私の財布には
450円位しか無いのである。
「やや、あ、明日は同僚と会社が終わった後、食事に
行くことになっているので、夕食はいらないのだ。
従ってお金は明日渡すから。」
私がそういうとユンボは、
「わかりました。」と言った。

続くかも。

追伸:
あぁあぁ!
一話で止めようとしたけど、間違ってUPしてしまった。(^^;
しかも同じ日に。
ぼけですな、ぼけ。
それにしてもアヂー。
  

2009年08月20日 Posted by igoten at 10:55Comments(6)ユンボ

妄想(ユンボ1)



村上春樹の『かえるくん地球を救う』と言う奇妙な小説を
読んでいたら、私も奇妙な妄想に取り付かれた。

ある日アパートに帰ったら、若い女性が部屋の中に
座っていた。
そして「お帰りなさい」と彼女は言った。
私は驚いて部屋を飛び出した、そして入口の表札を
改めて見直した。
何度確認しても私のアパートに間違いない。
そんなことは当然のことである、私はこのアパートから
10年以上会社に通っているのだ。

改めて部屋に入った私にその女性は言った。
「初めして、私はユンボです。」
「まあお座りになってお茶でも飲みながら、聞いて下さい。
今お茶を入れますから。」
そう言ってその女性は立ち上がり、玄関の横にあるキッチンで
お茶を入れ始めた。

お茶が入るとユンボはお茶を私の方にさし出しながら
こういった。
「あなたは先日雑誌 "SFXY"読者プレゼント
企画の"お手伝い型ロボット無料試用プレゼント"
に応募されましたよね。
その申込者45万6125人の中から抽選で
あなたがに当選しました。
本に書いてあったように、当選は商品の発送
を持って代えさせて頂きました。
私がその"お手伝い型ロボット"U-3R、通称
ユンボです。」

私があっけにとられていると、彼女はつづけて
こういったのである。
「私に仕事を指示される前に、この取り扱い
説明書をお読みください。
取扱説明書は全部で48冊あります。」
そして彼女は段ボール2箱分の取扱説明書を
軽々と持ち上げて私の前に置いたのである。

彼女に言われるままに私は一冊目の取扱説明書
を開いた。
『安全にお使い頂く為に』
"警告"
いきなり警告かよと思ったがよみ続けた。
1、本商品は電気を使用していますので、お風呂に
入れないでください。
2、製品の品質には万全を期していますが、万が一
誤動作を起こした場合は、U-3Rの首の後ろにある
スイッチを強く押すか、または出来るだけ速やかに
本製品から離れて下さい。
このほか45項目の警告が有った。

そして次の取扱説明書を手に取った。
『お使いになる前に』
"パスワードの設定"
1、本製品は工場出荷時に仮のパスワード"111"が
設定されています、セキュリティ保護の為すぐにこの
パスワードを貴方の独自なパスワードに変更してください。
なおパスワードは言葉で指示出来ます。

そこで私は取扱説明書に書かれてあるように、
「パスワードをセットする。」と言った。
「承知いたしました。」ユンボがいう。
「12345」私は数字を言った。
「パスワードのセキュリティレベルが低すぎます、
25文字以内の他のパスワードを設定して下さい。」
「0904801xxxx」私は自分の携帯電話の番号を言った。
「電話番号が最も危ないパスワードです、他の
パスワードを設定してください。」
「75389564」私は言った。
「もう一度確認の為に今のパスワードを言って下さい。」
言える訳がないめちゃくちゃな数字を言ったのである。
私は黙っていた。
「忘れたのですか?」ユンボは言った。
「そうだ、忘れたのだ」私は言った。
「リセットしましたので、もう一度パスワード
の設定をお願いします。
ただし5回以上パスワードの設定を失敗した場合、
私は自動的にフリーズ状態となり、24時間その状態が
続きます。」
私はあせった、そして母の生年月日と私の生年月日を
続けて言った。

「続いてパスワードを忘れた場合の合言葉を設定します、
次の中から選んでください。母の旧姓、ペットの名前、好きな果物......」
「ペット、コタ」私は言った。
「これでパスワードの設定は終了しました。」

「私はこれから夕食の用意をしますから、貴方は引き続き
取扱説明書を読んでいてくださいね。」そう言ってユンボは、
キッチンの方に歩いていった。


続く、次回はいつか。
  

2009年08月20日 Posted by igoten at 07:28Comments(2)ユンボ