「無犯罪証明書」って何

(これはドイツ大使館のホームページのビザ取得のところから
借りてきた写真である、めちゃくちゃおしゃれじゃんね)
[前回]いきなり総務部長Sさんが私にドイツ赴任を言い渡した。
「とりあえず早めに広尾のドイツ大使館に行ってどんな手続きが必要か聞いてきて下さい、
ドイツの労働ビザを取るのはなかなか難しいから」
そこまで言うとS部長は私の返事を待たずに行ってしまった。
普通はこんな手続きは総務がやるのであるのだがSさんは全く他人事である。
私は迷っていた、行くべきであろうか断るべきであろうか。
当然会社の命令にそむくことはその会社を辞めることを意味していた。
決心がつかないまま、とりあえず私は広尾のドイツ大使館に出かけた。
「まずは無犯罪証明書がいりますね」
大使館の日本人の初老の紳士はドイツ滞在に必要な手続きを書いた紙を渡しながら
そう私に説明してくれた。
ドイツタ大使館に行くとドイツ人が応対に出てくると思っていた私は少々拍子抜けしながら、
「無犯罪証明書、聞いたことがないな」などと、ぶつぶつ独り言を言いながら大使館を後にした。
どうせこのまま会社に帰っても教えてくれる人はいない、なんせ私は我が社最初の
ドイツ駐在員である。
技術的な事に関しては教えてくれる先輩や同僚は沢山いるのであるが、
アメリカの事ならいざ知らず、さすがにドイツとなると 知っている人は居ないであろう。
所詮どこに居ても、最終的に頼りになるのは自分だけである。
どこに行って聞いたらいいか判らないので先ず私は、ドイツ大使館の帰りに渋谷の
駅前の交番に行った。
無犯罪証明書というからには警察に行けば当然判ると思ったからである。
「すません、無犯罪証明書はどこに行ったらもらえるのでしょうか」
私の問いに対して、「犯罪証明書、いったいどんな犯罪を犯したのだ」と若い警官は答えた。
要するに知らないのである。
私もあまり期待はしていなかったが何かきっかけでもと思い聞いてみたのだ。
その時奥の方に居た年配の警官が「無犯罪証明書か、前にも聞かれたことがあるな、
確か本庁の方で発行していると思うがいったい何に使うんだい」言った。
「ドイツへの労働ビザを取るために必要だとドイツ大使館で言われたのです」
と応える私。
「ふーん ドイツは厳しいと聞くからな」と警官。
本当に判っているのだろうか。
とにかく私はその足で警視庁に行ったのである。
当時ドイツは経済発展に伴い、トルコから大量の労働者を受け入れており、
これと比例して外国人による犯罪が増えていたのだ。
付記:
無犯罪証明書とは『犯罪経歴証明書』と言うもので、とはその人物に有罪が
確定した経歴(犯歴)が無いことを証明する公文書である。