漂流

漂流 漂流
吉村 昭 (著)
「BOOK」データベースより
江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、 不気味な沈黙をたもつ絶海の火山島に漂着した。水も湧かず、 生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行ったが、 土佐の船乗り長平はただひとり生き残って、12年に及ぶ苦闘の末、ついに生還する。 その生存の秘密と、壮絶な生きざまを巨細に描いて圧倒的感動を呼ぶ、長編ドキュメンタリー小説。


人は何が怖いかといって、孤立することほど怖いことはない。
無人島に一人だけとり残されるというのは、いわば究極の孤独である。
江戸時代、漁船の遭難によって漂流、そしてかれらが漂着した島は
水も草木もない現在の鳥島。
ただアホウドリの大群だけが彼らを待つ、この鳥を取って食べる以外に
生きる方法はない。
偏食で死んでゆく仲間、唯一の食料の、渡り鳥のアホウドリが飛び去って
行ってしまう恐怖。
何人かいた仲間も次々に死んでしまい、ついに一人に....

これは強靭な精神力と知恵で絶望的な状況を生き延びてゆく感動の
ドキュメンタリー小説である。
次の一節は他の遭難者が島に来たくだりである。
..
「井戸は有るのでしょうね?」
八五郎が、気づかわしげにたずねた。
..
「井戸などあるものですか」
長平が、さりげなく言った。
「ない?」
「そうです。この島には、小川ないし、泉もない。
雨水をためて飲む以外にはないのです」
..
「それに......」
と、長平は言った。かれの顔に、悲しげな表情がうかんだ。
「食べ物も、鳥を殺生して生きていく以外にない。
穀物なども、食べられる野草もない。貝をひろったり、たまにかかる
魚を釣るくらいのもので....」
長平は、うつろな眼をして言った。

絶望的な状況でも最後まであきらめない者だけが生き残れるのである。


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2009年05月19日 Posted byigoten at 07:39 │Comments(0)読書

 
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