善魔女のパン

善魔女のパン
オー・ヘンリー(著)


オー・ヘンリーの短編小説集はまるでドラえもんのポケットのようだ。
全く何が飛び出すのやら見当がつかない。
この『善魔女のパン』はピリッとわさびのきいた短編である。

ちょっといき遅れたパン屋の女主人は、毎日お店に来て
古いパンを買う、少し貧乏そうな男に興味を持ち、
ある日そっと内緒でその男が買った古いパンの中に
たっぷりのバターを塗る。
そして男の喜ぶ顔を想像して一人ぜいにいる。

ところが次の日その男が、凄い形相で怒鳴り込んで来る。
なんとその男は建物の設計技師で、懸賞の市役所の
建物の図面に全精力を注いでおり、やっと出来上がった
その図面の最後の仕上げにその古いパンで、
下書きの鉛筆の後を消そうとしたのだ。

この短編の書き出しを見てほしい。

ミス・マーサ・ミーチャムは、街角の小さなパン屋をやっている。
とんとんとんと、階段を三段上がって扉を開けると、
ベルがちりんちりんと鳴る、そんな店だ。
 ミス・マーサは四十歳で、通帳には二千ドルの預金があり、
差し歯を二つと、いわゆる同情心を持ち合わせていた。
もっと結婚運に恵まれない女性でさえ結婚していく中で、
彼女はずっと独身でいた。

すばらしい書き出しではないか。
どこにでもいる少しおせっかいな女性、
やっていることは間違いなく善意からであるが、
それがいろいろな厄介を引き起こす。
私もそんなことを何回も見ている。
そんなことを題材にしているが、
筋書きも何もかもパーフェクトでうっとりしてしまう。
どうやったらこんな短編が書けるのだろうか。

読みたい方は 善魔女 どうぞ。


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2009年07月15日 Posted byigoten at 07:31 │Comments(5)読書

この記事へのコメント
igotensama
これ読んだことあります。
もう何年も前で忘れましたが、教科書だったか・・・
今読むとまた違う思いですね。
小さな親切大きなお世話。
でも・・・
ちょっとかなしい
Posted by 北の魔女北の魔女 at 2009年07月15日 08:28
この小説の最後の2行目を読むと、
実はこの善魔女さんその日はちょっと期待して
おしゃれをしたんだけれど、その服を脱いで、
普段着に着かえて、ついでに手作りの
化粧品も捨てて、またこれからも
今までと同じに何事も無かった様に
暮らしていくのです。
この善魔女さんも北の魔女さんと同じに
強い魔女さんで「ちょっと失敗したかな」程度で
この位では全くへこたれません。
Posted by igoten at 2009年07月15日 12:32
ちょっと読ませてもらいましたぁ。
こういうスパイシーな短編てイイですねぇ。
Posted by うたかた夫人 at 2009年07月16日 08:52
ア・途中で入っちゃったー!(笑)

まぁ いじらしくもかわいいマーサ♪
男の方にだって、言い方ってもんがあるでしょうに(怒)
マーサのココロが伝わっていたことは確かなんだからさ。

な~んて怒ってみても、
これが小説に味をつけているんだものね。
Posted by うたかた夫人 at 2009年07月16日 08:58
この短編小説実によく出来てるんですよね。
この建築設計士3か月の仕事をふいにされて、
かんかんに怒ってるんですが、ドイツ人なので
英語がなまっていて 「おまえのぜいでめちゃくちゃだ!」
なんてユーモラスに言う。

他の書評を読むとちょっとした悲劇の
様に書いてあるけど、そうでもないいんです。

書きだしの「ベルがちりんちりんと鳴る、そんな店だ。」
とか「差し歯を二つと、いわゆる同情心を持ち合わせていた」
とか「あのバターはどうもまずかった。こうなった以上、
ブルムバーガーの設計図は、切り刻んで、
味の足りないサンドウィッチにでも入れるしかないというわけでして」
などユーモラスに書いている。
そして、最後に
「それから、マルメロの種とホウ砂の混ぜ物のお手製化粧品を、
窓の外のごみ箱に放り込んだ。」
この魔女さん結構サバサバしてるんですよね。
ストーリーを読まずに雰囲気を読むと、
悲劇と言うよりなんかこう、女の子がちょっといたずらをして
怒られてしまったような『おちゃめ』な雰囲気が出ています。
このへんが短編の名手オーヘンリーの名手たるゆえん
なんでしょうね。
Posted by igoten at 2009年07月16日 12:40
 
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