なんじゃろね、これは

なんじゃろね、これは
蜜のあわれ

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆうぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかえらばや
遠きみやこにかえらばや

ご存じ、室生犀星の詩である。
最初の2フレーズを発見しただけで、もうこの人は
生まれてきた価値があるように思われる。

続いて次の会話を読んでみてほしい。

「それからね、いろいろ買っていただかなくちゃ、
あたい、何一つ持っていないんですもの、
ネックレスだの、時計だの、時計はきん色をした
ぴかぴかしたのをね、それから指輪もいるけど靴だの
洋服だの、......」
「きみがそんなものを着たり嵌めたりしたら、お化けじゃないか。」
「お化けでも何でもいいわよ。買っていただけるの。」
「買うよ。おじさんの買い物を控えめにすれば、何でもかえる。」
「もう一つ肝心なことは毎月こずかいをどのくらい貰えるの、
それを決めてかからなきゃ、それが一番肝心なことだと思うわ。」
「そうだな千円もあればいいじゃないか。」
「千円ぽっちで何が買えるとお思いになるの、どんなに少なくとも
五万円いただかなくっちゃ暮せないわよ。」
「五万円というお金はおじさんの小説を一つ書いたお金の高だよ、
それだけ毎月きみにあげたらおじさんこそ、どうして暮しいいいか
判らない。まアせいぜい一万円くらいだよ、それで少なかったら
恋人はやめだ。」
「こまるは、一万円じゃ。じゃね、クリイムだのクチベニのお金は
時々別の雑費として出していただけます?」
「それは随時出すことにするよ。現金では一万円以上はとても
出せないよ、金魚のくせに金とってどうするつもりなの。」
「じゃ一万円でいいわ、ふふ、一万円の恋人ね、あたい、
はたらくことにするわ、縁日の金魚盥(だらい)にでてゆくわ。」

これはいい年をしたおじさんと女子大生の援助交際の相談
をしている会話ではないのだ。
おじさんと話しているのはなんと『金魚』なのである。
この金魚買い物に行ったり、歯医者にいったりする。
そして書いたのはこれも文学界の重鎮室生犀星である。

よく散歩の途中で犬と大声で話している人を見かけるが
これに比べればそんなことは何でもないことである。
読み進めば読み進むほど、もう何が何だか。。。。。。



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2011年05月15日 Posted byigoten at 08:14 │Comments(0)読書

 
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