静物

静物

『青木氏の家族が南京ハゼの木の陰に消えるのを見送った
コーチの先生は、何ということもなく心を打たれた。
(あれが本当に生活だな。生活らしいせいかつだな。
夕食の前に、家族がプールで一泳ぎして帰ってゆくなんて....)
青木氏の家族が、暮色の濃くなった舗装道路をかえって行く。
大きな、毛のふさふさ垂れた、白い犬を先頭にして。
彼等を家で待つものは、賑やかな楽しみ多い食卓と、
夏の団欒だ。』
 庄野潤三 著  『プールサイド小景』
一見幸せそうに見える家族の中に忍び寄る不幸。
夫は会社の金を使いこんだ為に、会社を首になったのだ。
小市民的な小さな幸福がいかに脆(もろ)く、壊れやすいかを
描いた芥川賞受賞の秀作である。

『とくに、「プールサイド小景」なんか僕は大好きです。
読み終えて本をとじても、そこに描かれていたいろんな情景が、
ぱっぱっと、色つき温度つきで頭に浮かびあがってくる。
そんななまめかしい気持ちにさせてくれる短編小説は、
ほかにはあまりないのです。』

『「舞踏」と「プールサイド小景」といった初期の作品を
初めて読んだ人はおそらく「この人がこういう方向でこれから
どんどん成熟してのびていけば、ものすごい小説家になるんだろうな」
と考えるのでなないでしょうか。
ところがそういう方向にはいかない。
「静物」に行っちゃうわけです。
いや、僕は何もそれを非難しているわけではありません。
「静物」は文句なく素晴らしい作品だし、僕は大好きです。
ただ、ああ、行っちゃったんだなと、それだけです。』
  村上春樹 著 『若い読者のための短編小説案内』
こんな解説を書かれるとこの「静物」という短編読まずには
いられませんよんね。

しかしこの「静物」と言う作品はとても難しい。
ほとんど何も起こらない子供たちとの日常を書いているように
見える。

台の上に皿を置きその上にリンゴを3つ位置いて、それを
絵に描いている。
まさに「静物」なのだが、その背景が全く描かれていない、台さえも。
いったいどのような状態でリンゴが置かれているのか分からない。
しかし描かれていない背景の中にほんの薄ぼんやりと、部屋の
情景が見えるような気がしたり、そんな感じの小説である。



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2011年07月25日 Posted byigoten at 07:49 │Comments(0)読書

 
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