胡桃の部屋

NHKのドラマ『胡桃の部屋』は面白い。
このに出てくるお父さんは、向田邦子のエッセイの中に
出てくるお父さんそのものですね。
そこで、既に何回か読んでいるのだが、本棚から向田邦子の 『父の詫び状』を探して、
出張に持って行き、電車の中なんかで
読み返してみた。
向田邦子のエッセイはユーモアが有って、情景描写が的確で、 人の観察が良く出来て素晴らしい
その中で『学生アイス』と言うエッセイがある。
向田邦子が学生の頃アイスクリーム売りのアルバイトをした時の
思い出を書いたものである。
下の文章はその最後に書かれているものだが、これだけ抜き出しても
立派に完結しているからすごいものである。
記憶と言うものは糸口がみつかると
次から次へと自然にほどけてくる。
アイスクリーム売りの最後の夕方、私達は五、六個余った
ジャーを抱えて明治神宮の表参道に腰を下していた。
相棒も私に義理立てして今日で止めるという。
残りは商売繁盛の記念に、通しかかった感じのいい人に無料で
進呈しようということになった。
ちょうどその時、五、六歳の女の子が、お豆腐でも買いに行くのだろう、
空の鍋を抱えて通りかかった。
呼びとめて、アイスクリームを鍋に入れ、お母さんに叱られるといけないから、
と事情を書いたメモを渡した、女の子は泣きだしそうな顔で見ていたが、
犬にでも追われるように同潤会アパートの方角に飛んで帰って行った。