残光


内容(「MARC」データベースより)
記憶を失い介護施設に暮らす妻。
みずからの切実な老い。
小説をめぐって執拗に考えつづけながら、
遠い妻に心を馳せる日々…。
90歳のいまなお最前線に立つ作家が、
持てる力のすべてを注いだ長篇作品。


児島信夫の小説を読んでいると、突然とても異常な
世界に引き込まれそうな感じがする。
その異常な世界は決して居心地の良い世界では
無さそうなので、読む方もかなり抵抗するのだが、
抵抗すればするほど蟻が蟻地獄に落ち込むように、
又はビリヤードの玉が、ポケットの手前で止まろうとして
いるように見えて、突然ポケットの穴に落ち込むように、
異常な世界に引き込まれてしまう。

しかし一旦その中に引き込まれてしまうと、不思議なことに、
なにか少しホッとした気分になって、妙に居心地の良い空間を感じている
自分を発見して、かえってそれに驚くのである。

蓋(けだ)し、人の頭の中には何処かとても屈折した、
脳のくぼみみたいなものが有って、人は普段はその窪みを
直感的にしかも無意識によけながら生活しているのだが、
ある日、なにかのきっかけで突然その窪みにはまり込み身動きが
取れなくなったりする。

つまり人は、普段はとても正常なんだが、その裏側にとてつもなく
異常な箇所が有って、なにかの拍子にそれが顔を覗かせた時、
表と裏が一度にペロンとひっくり返って、一体どちらが主人でどちらが
従者なのか分からなくなる瞬間が発生する。

長らく人間をやっていると、実際にそのような場面に出くわして
ただただ驚きあきれるのであるが、児島信夫の小説を読むと
そんな異常な体験が、何と疑似体験出来るのだ。

そして、それはとても面白いことなのである。

  

2012年01月18日 Posted by igoten at 08:09Comments(2)読書