セント・マルチン祭



ドイツに赴任した時のこと、社の規定によって私が赴任してから2か月経って
女房と娘がドイツに来た。
しかし2か月の間私は殆ど家のことが出来ずに、ドイツから他の国に
出張していた。

アパートは借りた物の、炊事設備なんかも満足に整っていなかったのだ。
娘はまだ幼いし、私は忙しくて家に居ることは少なく、不安のスタートとなった。
  
私の女房と子供がドイツに来て2日目の夕方である、 ドアのチャイムが鳴り、出てみると
アパートの向かい住む、アウフバッサーさんの奥さんが立っていた。
そしてアウフバッサーさんはにこにこしながらたどたどしい英語でこう言ったのである。
「今日は子供のお祭りである、子供たちは歌を歌いながら家々を回って飴をもらうことになっている、
あなたの娘も他の子供と一緒に家々を回らなければならない」と。
私は女房と娘にアウフバッサーさんの言ったことを説明しながら、どうしようと相談した。



こういう場合女房と娘の返事は大抵一つである。
「行ってみたい」
やがて娘はアウフバッサーさんに手を引かれ、その後を女房が、 とことこついて出かけたのである、
もちろん私は家にいた。
一時間位経ったのであろうか、私の心配をよそに、娘はポケット一杯にキャンディーを詰め込んで、
にこにこしながら帰って来た。

女房の話によると、娘はドイツ人の子供たちと一緒に近所の家々を回り戸口で歌を歌って、
キャンディーをもらったということである
もちろんん私の娘はドイツの歌など知らないので、中には歌を歌わないとキャンディをあげない、
という 家もあったようだが、そんな時はアウフバッサーさんが娘の手を引いて、
代わりに歌を歌ってくれたとのことであった。

ドイツ生活はまだ始まったばかりで、どこにも知り合いなど居らず、
右を向いても左を向いても分からないことだらけであった。
しかも生活の上でも、仕事の上でも心配事は山のようにあって、私を押しつぶそうとしていた。

しかしこの日、私はなんとなくこれからこの国でやっていけそうな気がしたのである。
11月11日、その日ドイツはセント・マルチン祭であった。

『・・・ラララララ、セーントマーチン アーベンダス』

  

2010年11月11日 Posted by igoten at 07:00Comments(2)ドイツ騒動記