ミオ(2)



西暦2053年、突然空から大量の鳥が降ってきた。
それは人間にも感染するウイルスによるものだった。

このことはある程度は予想された事態で有ったが、
そこに大きな落とし穴が待っていた。
このウイルスは人間が予想して備えてきたウイルスとは
基本的に異なる種類のウイルスだったのだ。

人々がこのウイルスの本当の脅威に気づくには
それほど時間がかからなかった。
このウイルスは、人に感染する度に進化をとげた。
そして新しい形態に変わることにより、ワクチンに
頼ろうとすする人間の知恵をあざ笑うように、
いとも簡単に人の持つ免疫システムをすり抜けた。

更に恐ろしいことに、一度このウイルスに感染して
治癒した人も、再び進化したウイルスに感染したのだ。
そして街からは次々と人々が姿を消していった。
今まで人々でにぎわっていた街々は累々とした人と
鳥の屍(しかばね)で埋め尽くされていた。

私とジョンはいち早く危険を察知して、山に逃げ込んだ。
山に居た人達にとって、初めのうちは町に居た人達より
ウイルスの脅威は少なかったが、しかしそれも時間の
問題であった。
やがて我々の周りに居た人達も次々にウイルスに
犯され始めた。

私とジョンは安全を求めて更に深い山に踏み込んだのだ。
そしてしばらくして出てきた時に観たものは、
今までの繁栄がまるで嘘のような、面々と続く廃墟であった。

『とにかく人を探さなくてはならない』
その強い思いが湧きあがってきた。
多分それは何万年もの間に私たちの遺伝子の中に
組み込まれてきた使命感で有ったのかも知れない。

そして私はジョンを伴って、人探しの旅に出たのだ。
多分この町にも生き残っている人は居ないだろう、
ジョンがもし言葉をしゃべれたらどんなにか心強かった
ことか。
しかしそれは無理な注文であった、この美しい毛並みの
忠実な犬は私がいくら望んでも言葉を話すことは出来ない。

人がいない街などに用はない、こんなところで躊躇している
暇はないのだ。
今夜やあの向こうに見える小高い山の中で一夜を
過ごそう。
あの山の向こうにはもしかしたら人が住む街があるかも
知れない。

私はそう思いながらジョンに呼びかけた。
「ミヤオ!」
私は人間からは『ミオ』と呼ばれていた。
ジョンは振り返ると、私の自慢の三色の毛並みを持つ
引き締まった体のにおいを少しの間嗅いでいたが、
私が走り始めると、低く唸りながら私の後に続いて走り出した。

  

2009年09月25日 Posted by igoten at 07:11Comments(5)SF