ささやかだけれど、役に立つこと
本を読むことは深い穴の中にもぐって黙々と
ダイヤモンドの原石を掘り出している炭鉱夫の仕事に似ている。
一年中土を掘り分けても、いい原石に出会える保証など無い。
しかし予告無しに突然素晴らしい原石を掘り当てることもあるのだ。
レイモンド・カーヴァー 著
村上春樹 訳
『ささやかだけれど、役に立つこと』
ルイス夫人は土曜日の午後、町のパン屋で月曜日の 一人息子の誕生日の為のケーキを予約する。
ところがその誕生日の当日、息子は学校の帰りに交通事故に遭って、 昏睡状態に陥ってしまう。
病院の息子の付き添うルイス夫妻。
医師は夫妻の息子は容態は安定していてただ眠っているだけだと診断する。
しかし息子の目は覚めない。
不安に駆られる夫妻。
疲れきって着替えに家に戻ったルイス氏にパン屋から電話がある。 電話ではケーキを取りに来いと言っている。
何のことか分らないルイス氏はいたずら電話であると思い 電話を切ってしまう。
怒って何度か嫌がらせの電話をかけるパン屋。
夫と交代で家に帰った夫人にも執拗なパン屋の嫌がらせの 電話は続く。
「悪魔! どうしてこんな酷いことをするの?」
夫人は電話の相手をなじる。
そして息子は目を覚ますことなく他界してしまう。
悲しむ夫妻、そこにまたパン屋から嫌がらせの電話がかかる。
やがてその電話がパン屋からのものであることに気付く夫人。
怒りにまかせ夜中にパン屋に出向く夫妻。
パン屋は夜働いている。
夫妻から自分の息子が亡くなったことを聞かされるパン屋。
自分がどんなにか酷いことをしたことに気づいたパン屋は、 誠心誠意謝罪しながら夫妻を腰かけに座らせて 熱いコーヒーと焼きたてのパンを出す。
温かいまだ砂糖の固まっていないシナモン・ロール。
夫妻は急に空腹を感じ出されたパンを食べる。
「ちゃんと食べて、頑張って生きていかなきゃならないんだから。
こんなときは、ものをたべることです。
それはささやかなことですが、助けになります」パン屋は言う。
子供のいないさみしい境遇を話すパン屋。
じっと耳を傾ける夫妻。
『二人はそのパンの匂いをかぎ、パン屋にすすめられて、 一口食べてみた。
糖蜜とあら挽きの麦の匂いがした。
二人は彼の話に耳を傾けた。
二人は食べられる限りパンを食べた。
彼らは黒パンを飲み込んだ。
彼らは夜明けまで語り続けた。
太陽の白っぽい光が窓の高みに射した。
でも誰も席を立とうとは思わなかった。』
レイモンド・カーヴァーの短編はとても心に残るのだが、 いづれも難解で浅学の私などには容易に心を開かない。
しかしこの短編は明快である、そして珠玉である。
どうにもならない運命に翻弄され苦悩する人の心を、 暖かく香ばしいパンの香りが静かに癒す。
本の中から人の優しさが甘いパンの匂いとともに 香りたってくるのである。
ダイヤモンドの原石を掘り出している炭鉱夫の仕事に似ている。
一年中土を掘り分けても、いい原石に出会える保証など無い。
しかし予告無しに突然素晴らしい原石を掘り当てることもあるのだ。
レイモンド・カーヴァー 著
村上春樹 訳
『ささやかだけれど、役に立つこと』
ルイス夫人は土曜日の午後、町のパン屋で月曜日の 一人息子の誕生日の為のケーキを予約する。
ところがその誕生日の当日、息子は学校の帰りに交通事故に遭って、 昏睡状態に陥ってしまう。
病院の息子の付き添うルイス夫妻。
医師は夫妻の息子は容態は安定していてただ眠っているだけだと診断する。
しかし息子の目は覚めない。
不安に駆られる夫妻。
疲れきって着替えに家に戻ったルイス氏にパン屋から電話がある。 電話ではケーキを取りに来いと言っている。
何のことか分らないルイス氏はいたずら電話であると思い 電話を切ってしまう。
怒って何度か嫌がらせの電話をかけるパン屋。
夫と交代で家に帰った夫人にも執拗なパン屋の嫌がらせの 電話は続く。
「悪魔! どうしてこんな酷いことをするの?」
夫人は電話の相手をなじる。
そして息子は目を覚ますことなく他界してしまう。
悲しむ夫妻、そこにまたパン屋から嫌がらせの電話がかかる。
やがてその電話がパン屋からのものであることに気付く夫人。
怒りにまかせ夜中にパン屋に出向く夫妻。
パン屋は夜働いている。
夫妻から自分の息子が亡くなったことを聞かされるパン屋。
自分がどんなにか酷いことをしたことに気づいたパン屋は、 誠心誠意謝罪しながら夫妻を腰かけに座らせて 熱いコーヒーと焼きたてのパンを出す。

温かいまだ砂糖の固まっていないシナモン・ロール。
夫妻は急に空腹を感じ出されたパンを食べる。
「ちゃんと食べて、頑張って生きていかなきゃならないんだから。
こんなときは、ものをたべることです。
それはささやかなことですが、助けになります」パン屋は言う。
子供のいないさみしい境遇を話すパン屋。
じっと耳を傾ける夫妻。
『二人はそのパンの匂いをかぎ、パン屋にすすめられて、 一口食べてみた。
糖蜜とあら挽きの麦の匂いがした。
二人は彼の話に耳を傾けた。
二人は食べられる限りパンを食べた。
彼らは黒パンを飲み込んだ。
彼らは夜明けまで語り続けた。
太陽の白っぽい光が窓の高みに射した。
でも誰も席を立とうとは思わなかった。』
レイモンド・カーヴァーの短編はとても心に残るのだが、 いづれも難解で浅学の私などには容易に心を開かない。
しかしこの短編は明快である、そして珠玉である。
どうにもならない運命に翻弄され苦悩する人の心を、 暖かく香ばしいパンの香りが静かに癒す。
本の中から人の優しさが甘いパンの匂いとともに 香りたってくるのである。