キジバト飼育日記 4

家の中に居ても、あの雛のチーチーいう声が私に耳から離れなかった。
このままだと明日の朝には、鳩の雛は間違いなく死んでいるに違いない。
もう半日以上も何も食べていないはずだし、もちろん水も飲んでいないのだ。
冷たい夜露と長い夜が、深い穴に潜む蟻地獄のようにあの雛を待ち受けているのだ。
やりきれない気持ちの中で、「どうせ死ぬんなら、飼ってみようか」という言葉が、
ふと口をついて出た。
そばに居た母の目が一瞬輝いた、母は無類の動物好きである。
私は懐中電灯を持って先ほど雛を置いてきた杉の木の近くに行き、その木の
下の草むらを照らした。
幸運なことに雛はまだその木の下に動かずに居た。
私がその雛を手のひらの上に拾い上げると、雛は「チーチー」と弱々しく鳴いた。
雛はおとなしく手の上に乗っていたが、そのひんやりとした足が、
この不幸な雛の運命を暗示するかのように思われた。
木から落ちることがなかったら、この雛は今頃は暖かい親鳩の羽の下で、
すやすやと眠っているに違いなかった。
あがらうことの出来ない運命の中で、全く無防備なこの雛は、敵なのか味方なのか
分からない人間の前に、自身の存在の全て投げ出している。
運などと言うものは、一度落ちるだけ落ちれば後は自然に這い上がって来るものなのか。
うっすらとと闇の中に立つ杉の木の下の枯れかかったミョウガの葉に静かに夜露が下りて、
家の中から漏れるわずかな光を反射していた。
そしてわずかな光の中で、手の上の小さな鳩の雛が、息を殺して私を見ている、
そんな気がした。
追記:
木に止まっている鳩の雛を指などにとまらせると、その足がとても暖かいことに驚く。
それもそのはずで、鳩の体温は40°以上とかなり高いのだ。
鳩の雛を手にとまらせて遊んでいると、突然手の一部が「熱い!」と感じることが有る。
そう、鳩の雛が手にフンをしたのだ。