キジバト飼育日記 6

(可愛くないと思って見ていたが、よくよく顔を見ると
結構ひょうきんな顔をしている。
なるほど、愛らしいという路線の他に、ひょうきんでいくという
路線も有ったのだ。)
さて、我が家の食客のメインディッシュは決まった。
ドック・ステーキだ。
材料のドック・フードの牛肉を、適度なお湯で柔らかくしたもので、
ふっくら、プリンプリンの湯気が出ているスペシャルステーキである。
このステーキを6等分位に切って、コーヒーをかき混ぜるマドラーの
スプーンの上に載せ、お待たせしましたとばかり鳩の雛の顔の前に
差し出した。
しかしどうした訳か鳩の雛は一向に口を開けようとしない。
雀の雛なら目の前に何か見えると大きな口をあけて餌を欲しがるのだが。
そういえばこの雛が口を開けた姿をまだ見ていない、チーチー鳴いている時は
口を閉じて鳴いているのだ。
嘴を手で持って強引に口を開けてみようかとも思ったが、雛の嘴はまるで
薄いセルロイドで出来ているようで、力を入れると折れてしまいそうで怖い。
何とか食べさせようとする試行錯誤が始まった。
しかしこの食客はなかなか気位が高くすんなりとは食べてくれない。
どうしようかと途方に暮れていると、雛が私の右手の人差し指と
中指の間に嘴を突っ込んで、大きく口を開けた。
どうも私の指を親の嘴と間違えているようで、何回試しても指を
出すとその間に嘴を突っ込んで大きく口を開いた。
もうこうなると話は早い、雛が口を開けている時に餌のステーキを
口の中に押し込めば良いのだ。
ただし雛が口を開けた時は殆どの場合、口が下に向いていて、
餌をやろうとしても口に入れた餌が下に落ちてしまう。
そこで右手の指の間に嘴を突っ込んで口を開けている時に、
左手で雛の口の口角を抑え、口を閉じないようにしながら少し
上を向かせて、その口に餌を入れてみた。
と、どうで有ろうか、餌が口の中に入った瞬間に雛は少し羽をバタバタ
させる動作をし、目を白黒させながら餌を呑み込んだのである。
もう一度同じようにしてもやっぱり美味しそうに食べる。
「おーい、餌を食べたぞ」と私が叫ぶのと同時に女房と母が寄って来て
雛が餌を食べるところを見ている。
雛はどんどん餌を食べて用意した3個のドック・フード全てを食べてしまった。
”餌をやり過ぎてはいけない”これは私が少年の頃痛い経験から学んだことであった。
鳥の雛は餌を与えるとドンドン食べる、そして食べすぎて死んでしまうのだ。
有る程度餌を与えておけば飢え死にすることは無いはずだ。
餌は少なめにした方が良い、それが私の考えだった。
水はどうしようかと迷ったが、マドラーのスプーンに少しの水を汲んで、食べ物と
同じように口を開けさせて流し込んだ。
雛は美味しそうに飲んだ。
これでもう今日は出来ることは何も無い、寒くないようにと新聞紙の下にホッカイロを
一つ忍ばせて、雛を段ボールの中に入れ、上に布をかけて暗くしてやった。
今まで飼おうとした鳥の雛はほとんどが一日で死んでしまった。
明日の朝まで生きていてほしいと言うのが我々の願いであった。